レザー(革)の特性を活かす
動物の「皮」は、「鞣し(なめし)」という工程を経て「革」と呼ばれる素材となります。本来は動物の皮膚であるため、柔軟かつ伸縮する密な繊維層(皮タンパク質コラーゲン)で構成されています。「鞣す」ことにより、皮膚を「革」と呼ばれる素材に甦らせます。この「鞣す」の文字が革を柔らかくすると書くように、「鞣し」によって柔軟性を革に与えます。「鞣す」技法には、植物からとられる「タンニン」を用いる「タンニン鞣し」や、塩基性硫酸クロム液を用いコラーゲンの酸根と結合させる「クロム鞣し」が代表的です。また国内固有の手法として、牛革を川水に漬けて脱毛し、塩と菜種油で揉み上げて天日に晒し、白色の皮に仕上げてゆく「白なめし」という技法もあります。
こういった「鞣し」により生まれた「革」は本来の皮膚の柔軟性と耐久性を持ち、古来から人を引き付けてきた不思議な魅力を放ちます。年月と共に深みを増し、傷を刻んでも、劣化というよりも「味」として受け入れられる数少ない素材です。
そういった革本来の特性を活かすとは、革の柔軟性、経年変化を前提としたデザインとすることです。タンニン鞣しの革は、特にストレスをかけると、その部分が変色していきます。デザイン、使用方法によって色の変化が著しい素材です。また、クロム鞣しの革は、繊維構造が荒くなり「ふわふわ」した柔らかさと軽さが特徴で、もっとも多くの既製品の材料に使われています。そういった特徴を活かし、長年にわたる使用の中で変化していくことを前提としたデザインを "alterezza"はコンセプトとしています。
使い始めの頃には未だデザインは完成していません。長年の時を経て、その人だけのデザインが完成します。多くの既製品は崩れを避けたがります。また傷を嫌います。従って、初めて手にした時が最高の状態であり、使ううちにその価値は減少していきます。"alterezza"は使っていくうちに魅力を増し続けることを目指しており、使い続けた年月がその作品を手にした人の真の価値であってほしいと思っています。
手縫い
詳しくは製法で述べますが、"alterezza"の作品は全て手縫いで作られています。ミシン縫いは、正確な縫い目と効率、また薄手の素材の縫い合わせが容易なことが長所です。しかし、その反面、糸が革を交差していないため、糸切れで簡単にほどけてしまう短所もあります。手縫いの場合は、「サドルステッチ」と呼ばれる縫い目となり、糸を交互に革に刺しながら縫い上げます。短所は、その効率の悪さですが、長所は厚手の革でも縫い上げることができるのと、ミシンでは縫えない立体的な構造でも技術により縫い合わせが可能なことです。厚手の革を使うメリットは作品の「コシ」が厚手の革で得られることと、革の柔軟性を活かしたデザインが可能なことです。実際に、薄手の革の場合、擦れ等で簡単に穴があいてしまうことを考慮し、 "alterezza"では厚手の革を多用するため、全て手縫いで仕上げられています。